動脈硬化の治療 ~ロータブレーター~
心臓カテーテル検査・治療
心臓病は癌に次いで、日本人の死因の第2位にあたります。特に近年、食生活の欧米化など生活様式の大きな変化によ り狭心症、心筋梗塞など動脈硬化が原因とされる心疾患は、増加傾向にあります。
そのような心臓病が疑われた場合に、精密検査としてカテーテルという細い管を使って心臓を体の中から調べる「心臓カテーテル検査」があります。
心臓カテーテル検査とは、冠動脈という血管に造影剤を注入して動脈硬化による狭窄を評価したり、心臓の動きや内部の圧力を測定したりすることで、心臓の機能や弁膜症の状態などを評価します。
カテーテルによる治療法としては、冠動脈の狭窄を拡張する「経皮的冠動脈インターベンション治療(PCI)」などがあります。
冠動脈インターベンション
冠動脈狭窄に対するカテーテル治療の開始初期は、先端が風船状に膨らむバルーンカテーテルによる病変拡張が主な手段でしたが、急性冠閉塞(治療後まもなくの血管閉塞)のリスクが高く、拡張した部位が数ヵ月後に再び狭くなる「再狭窄」も高い確率で起こりました。
これらの問題点を克服すべく新しい治療器具が登場し、特に冠動脈ステント(BMS: Bare Metal Stent)は初期成功率を向上させるとともに再狭窄率を下げました。また、血栓症発症予防のために一定期間血液をさらさらにする薬を併用する治療法も確立され、冠動脈治療の中心となりました。
しかし、再治療率は依然として20%程度認められ、特にステント内再狭窄(ステント内に新たな狭窄が生じること)は新たな問題となりました。
そこで、再狭窄の原因となる細胞増殖を抑制する薬剤を溶出する薬剤溶出性ステント(DES: Drug Eluting Stent)が新たに登場。劇的に再治療率を低減させるとともに、さらなる治療成績の向上につながりました。
ロータブレーターによる治療
当院では、2020年よりPCIの一つの方法としてロータブレーターを導入しています。
ロータブレーターは、バー(burr)と呼ばれる金属の先端に人工の微小ダイヤモンドが埋め込まれています。このバーを1分間に14~19万回転で高速回転させることによって、冠動脈内の動脈硬化病変を削ります。バーの特長は、硬い部分(非弾性組織)のみを削り、柔らかい部分(弾性組織)は削らないシステムです。一般的に、血管内壁の健常な柔らかい組織に損傷を与えることはないといわれています。
ただし、ロータブレーターによる治療は、全ての症例に施行する訳ではありません。統計的には、PCIのうち10%弱とされています。冠動脈の狭窄に硬い成分が多くバルーンやステントによる拡張が難しいケースで使用します。
そして、ロータブレーターの使用可能病院は限られており、厚生労働省の定める施設基準を取得している病院のみが、使用することができます。当院では、2020年より施設基準を取得しています。
ロータブレーターによる治療は、他のPCI同様、皮膚から細いカテーテルを冠動脈まで挿入して行います。全身麻酔は不要で、まずカテーテルを心臓まで進めた後、細いピアノ線のようなワイヤーをカテーテルに通して冠動脈内に進め、削りたい病変を通します。
次にロータブレーターをワイヤーに添って進ませます。ワイヤーがレールのようになるので、ぶれて血管の壁を傷つけたり、破ったりする危険性は低くなります。ロータブレーターが冠動脈の中の動脈硬化の部分を削り、再度バルーンで病変を良好に拡張できたらステントを留置して終了とします。場合によってはバルーンによる拡張のみで終了できるケースもあります。
当院では、このようにPCIの一つの手段としてロータブレーターを使用できますが、治療方針については循環器内科医師全員で個々の患者さんの病状、冠動脈病変の状況から一番よいと思われる治療方針を決定します。