手足のしびれ外来
毎週月曜日午後2時および木曜日午後2時30分から 「脳神経外科」
※新規の予約受付を制限しておりましたが、予約受付の再開いたします。
~しびれをきらす、その前に~
脳神経外科には、手足のしびれでお悩みの患者さんが他院からの紹介を含め、多くの方が来院されます。そのため、通常の外来枠は、他の病気の患者さんと重なってしまい、時間的な制限が生じます。
そこで脳神経外科では、特別外来枠として『手足のしびれ外来』を開設しています。手足のしびれを対象として、問診、視診、誘発試験および画像評価を総合的に判断し、必要に応じて手術の適応などを患者さんと相談しながら行います。
当院では脊椎・脊髄疾患はもちろんのこと、末梢神経疾患の手術が非常に多いことが特徴です。また、神経障害性疼痛に対する脊髄刺激療法も積極的に取り入れています。
手足のしびれでお悩みの患者さんは是非ご来院ください。悩まずに、一度診察されることをお勧めします。
以下にしびれをきたす疾患を列挙しますので、ご参考いただければ幸いです。
受付方法
【予約制】
※予約の変更又は取消をされる場合は、お早めに予約係へ連絡をお願いいたします。
電話での予約
平日(月曜日~金曜日)午後3時~5時
電話番号046-221-1570 内線3135 予約係
来院して予約
平日(月曜日~金曜日)午前8時30分~午後5時
場所 医事課3番窓口
脊椎・脊髄疾患
1.頚椎変性疾患(頚部脊柱管狭窄症および頸椎椎間板ヘルニア)
病態
脊椎は椎体および椎弓と呼ばれる骨が縦に連なって形成され、椎体と椎体の間にはクッションの役割をする椎間板が存在します。
脊椎の中には脊柱管と呼ばれるトンネルのような空洞が存在しこの中に神経の束である脊髄、馬尾神経およびそこから分岐する神経根が存在します。
頚椎は脊椎の上部に位置し7つの骨が連なり脊柱管を形成しています。頚部脊柱管狭窄症では首の背骨が加齢により変形し骨棘(骨のでっぱり)や脊髄の周囲にある黄色靱帯、後縦靭帯が肥厚することで脊柱管の体積が減少します。
また、頸椎椎間板ヘルニアでは椎間板が後方に飛び出し頚髄や神経根を圧迫する病態です。
症状
まず手のしびれが出現します。病気が進行すると手指の動かしずらさや手の力が入りにくくなり、物を落とすようになります。さらに病気が進行すると歩行時につまずきやすくなります。階段昇降、特に降りの際にバランスが悪くなります。
頚椎に病気がある人が転倒し頭や首を強打した際に首の脊髄である頚髄に強い力が加わり、両手足が動かなくなる「頚髄損傷」になる場合もあります。そのため、そのような状態になる前に適切な治療が必要です。
治療方法
まずは生活習慣の改善、投薬、装具の装着、牽引やリハビリテーションなどの保存療法を行います。保存療法が奏功せず急速にしびれ症状が進行したり歩行障害が出現した際には手術が選択されます。
手術療法(A:前方からの手術)
手術には大きく分けてA:前方からの手術、B:後方からの手術の2通りの方法があります。
病変が1か所、または2か所に限局されたときに選択されます。前頸部からアプローチし頸動脈や食道、気管などの重要な構造物の間から頚髄や神経根に到達します。
顕微鏡を用いて頚髄や神経根を圧迫している椎間板ヘルニアや後縦靭帯、および骨棘を取り除きます。比較的、傷跡が小さく侵襲が少ないため術後早期より動くことができます。
手術療法(B:後方からの手術)
病変が3か所以上の多椎間にわたる場合に選択されます。代表的な頸椎椎弓形成手術では、後方からアプローチして、脊髄の後壁を形成する椎弓を露出します。ドリルを用いて椎弓の片方に溝を作成、反対側の椎弓は完全に頚髄近傍まで掘り抜きます。溝の部分を支点として掘りぬいた椎弓を持ち上げることで、脊柱管の径を拡大させ頚髄への圧迫を取り除きます。
安全性が高い手術であり、当院ではリハビリテーション期間を含めて2週間程度の入院を要します。ただし、手術前の状態が悪く歩行障害をきたしている場合はリハビリテーション期間の延長が必要となります。
2.腰椎変性疾患(腰部脊柱管狭窄症および腰椎椎間板ヘルニア)
病態
加齢に伴う椎体や椎間板の変性、すべり症(上下の椎体のずれ)などが生じると神経の周囲に存在する黄色靱帯が肥厚し足を支配する馬尾神経を絞扼します。このような病態を、腰部脊柱管狭窄症と呼びます。
加齢に伴い上下の椎体が接触し骨棘が発生し馬尾神経周囲にある黄色靱帯が肥厚することで脊柱管狭窄症が起こります。 高齢の女性が腰を前屈し、乳母車などを押しながらスーパーマーケットで買い物をしている姿を見かけますが、この理由として前かがみになることで腰の脊柱管径が拡大し馬尾神経の圧迫が和らぐからなのです。
腰椎椎間板ヘルニアでは過度な運動やくしゃみ、トイレでのいきみなどで脊柱管の内圧が上がると椎間板が後方に突出し、神経根を圧迫することで足の痛みやしびれが出現します。この病態が、椎間板ヘルニアです。腰部脊柱管狭窄症と比較し若年者に頻度が高いのが特徴です。
症状
腰部脊柱管狭窄症では高齢者に頻度が高く、短距離の歩行で足のしびれや痛みが出現し休息により改善する間欠性跛行(かんけつせいはこう)が出現します。
脊椎の障害部位や程度により足のしびれや痛みの程度は異なり一般的に腰痛を自覚します。 腰椎椎間板ヘルニアでは比較的若年者の頻度が高く、足を持ち上げるとお尻から太ももの後ろに痛みが放散する坐骨神経痛が有名です。
治療方法
まずは投薬やリハビリテーション、生活習慣の改善指導などの保存療法から開始します。およそ3~6か月の経過観察を行っても症状が改善しない場合は手術を考慮する必要があります。
手術方法
腰部脊柱管狭窄症および腰椎椎間板ヘルニアの手術では、主に後方からのアプローチを選択します。腰椎後方除圧術では、椎弓を切除し肥厚した黄色靭帯を切除することで狭くなった脊柱管を拡げます。当院では筋肉を骨に着けたまま左右に分離し、除圧を終了後に分離した骨同士を結びつけることで、肉離れを回避した侵襲の少ない手術(MILD法)を行っています。
また、腰椎椎間板ヘルニアでは病側の椎弓を一部切除し、その間隙から突出したヘルニアを摘出し神経への圧迫を解除します。安全性が高い手術であり、当院ではリハビリテーション期間を含めて2週間程度の入院を要します。ただし手術前の状態が悪く歩行障害をきたしている場合はリハビリテーション期間の延長が必要となります。
3.脊髄腫瘍
脊髄腫瘍には脊髄神経そのものから発生する髄内腫瘍、および脊髄神経の周辺組織から発生する髄外腫瘍に分けられます。出現する症状は個々の症例で様々です。
髄内腫瘍の摘出手術は非常に難易度が高く、神経モニタリングを駆使した繊細な手術となります。代表的な髄内腫瘍および髄外腫瘍を列記します。ここでは頚髄血管芽腫、および髄膜腫の手術前後のMRI画像を提示します。術前はいずれも四肢不全麻痺および手足のしびれを呈していましたが、術後はこれらの症状は軽快し社会復帰しています。
髄内腫瘍
・上衣細胞腫(Ependymoma)
・星細胞腫(Astrocymoma)
・上衣下細胞腫(Subependymoma)
・血管芽腫(Hemangioblastoma)
・海綿状血管腫(Cavernous angioma)
髄外腫瘍
・髄膜腫(Meningioma)
・神経鞘腫(Schwannoma)
・転移性脊椎腫瘍(Metastatic spinal tumor)
4.末梢神経疾患
脊髄および馬尾神経から分岐した神経根は背骨の外に出た後、手足および体幹に向かい走行します。この神経を末梢神経と呼びます。
末梢神経障害では、慢性的に神経が周辺の構造物から圧迫を受けたり外傷などで周囲組織と癒着を起こすことで痛みやしびれを呈します。実臨床の場では末梢神経由来のしびれを自覚する人はかなり多いですが、定型的な診断方法が確立されておらず画像検査で証明することも困難であるため見逃されている症例が多いのです。
問診、血液検査、画像検査で脳や脊髄疾患が否定された場合は末梢神経疾患を疑います。その際は末梢神経を皮膚上で電気刺激し、誘発された波形の速度や振幅を記録する末梢神経伝導検査で評価します。
上肢の末梢神経疾患
1.手根管症候群
本疾患は末梢神経疾患の中で最も頻度の高い病気です。手根管とは手掌近位中央、母指球および小指球との間のトンネルをいいます。
手根部にある「屈筋支帯」と呼ばれる靱帯が肥厚し、このトンネル内の神経を持続的に絞扼・圧迫する疾患です。頻度的には圧倒的に中年女性、特に40~50歳以降の女性に多く認められます。夜間痛により目が覚める「nocturnal wake」が有名です。
症状としては、正中神経が圧迫されると手指掌側1―3指、および4指内側のしびれ感が現れ、進行すると握力の低下や母指球筋の萎縮が認められます。また日常生活の中では「箸の使用がぎこちなくなった」、「ボタンの留め外しが困難」などの不自由さを自覚します。
2.肘部管症候群
中年以降の男性に多く、男女比率は7:3との報告があります。変形性関節症や外顆偽関節による外反肘により神経麻痺が起こります。自覚症状として小指と環指尺側および手掌部尺側のしびれ感を自覚します。
また、手のひらの骨間筋、母指内転筋および小指外転筋の麻痺により運動障害が現われ、進行すると筋萎縮が起こり、鷲手変形が現われます。
3.胸郭出口症候群
前頸部に存在する前斜角筋、中斜角筋が第一肋骨に付着しこの囲まれたスペースを斜角筋間隙と呼びます。このスペースの中を第5~8頸椎神経根および第1胸椎神経根の5本が集束した腕神経叢、および鎖骨下動脈が通過します。首の長いなで肩の女性や筋肉質で怒り肩の男性では斜角筋間隙が狭いため、腕神経叢や鎖骨下動脈が絞扼されます。
症状としては肩から上肢、特に尺側(小指側)のしびれや痛みがあり、ほぼ全例で肩こりを自覚します。原因不明の肩こりの患者さんの中にこの疾患が潜んでおります。病状が進行すると握力の低下を自覚します。電車のつり革に捕まる、洗濯物を干す、携帯電話を持続的に持つ、長時間のパソコン業務などがつらいとの症状を訴えます。
投薬、ブロックおよびリハビリテーションなどの保存療法で改善が無い場合は手術を施行することがあります。手術では斜角筋間隙を形成する前斜角筋、中斜角筋を切断し、その付着部の第一肋骨を切除し腕神経叢、および鎖骨下動脈への圧迫を解除します。当院では、術中の電気刺激を用いたモニタリングを駆使して細かな神経を温存しながら安全な手術を施行しています。
下肢の末梢神経疾患
1.腓骨神経障害
足の末梢神経障害の代表疾患として腓骨神経障害があります。すねの外側から足背(足の甲)に強いしびれや痛みを自覚します。膝裏外側より約2cm下で腓骨頭内側で総腓骨神経が圧迫されている病変です。
脚の力が入りづらく、歩行がアンバランスでいずれの脚に重心をかけて歩行している、草むしりなどのしゃがんだ姿勢での長時間の作業を行っている、または骨盤骨折、股関節骨折や脱臼、大腿骨骨折などに合併します。
2,3ヶ月以上装具での改善が無い場合は神経剥離術を施行します。神経剥離術後6か月を経過しても改善が無い場合は、腱移行術(足趾屈筋腱前方移行術、後脛骨筋腱前方移行術、前脛骨筋腱外側移行術)を施行します。
2.足根管症候群
足根管とは内くるぶしと踵の間で屋根である屈筋支帯、床の後脛骨筋腱、および長母趾屈筋と長趾屈筋腱で構成される解剖学的トンネルを言います。
足根管症候群ではこのトンネル内を通過する後脛骨神経と後脛骨動・静脈が接触し、踵を避けた足裏にしびれをきたします。多くは土踏まずより前方の趾のしびれを自覚し砂利を踏んでいる、剣山の上を歩いているような痛みや膜が張っているような違和感を自覚します。比較的、高齢者に発症します。保存療法で改善が無い場合は足根管解放術を施行します。
3. 多発神経障害(多発神経炎)
多発神経障害(多発神経炎)では全身の末梢神経が障害され異常をきたす病気です。
糖尿病性神経障害では手首および足首より先のしびれ(手袋・靴下型)をきたします。それ以外でもアルコール多飲による栄養障害、感染症や抗がん剤などの薬剤、自己免疫疾患などに出現します。運動神経、感覚神経のいずれも障害されますが、多くの場合はまず足のしびれなどの感覚障害を自覚し、病気の進行に伴い全身に症状が拡がります。
診断は筋電図検査、神経伝導検査、血液検査、および尿検査の結果に基づいて下されます。この疾患に対する治療法は確立されておらず奏功する外科治療が存在しないのが実情です。
当院では多発神経障害による難治性疼痛に対し、患者様が希望すれば脊髄刺激療法で対処しています。脊髄刺激装置を体内に埋め込み脊髄(後索)を電気刺激することで疼痛領域に別の感覚を与え痛みを緩和する治療です。
文責 脳神経外科 寺尾亨